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2005/02/07
  
2月6日の日経新聞文化欄より
  
  

「楽天」は、「楽天家」「楽天的」などのように、
現実を肯定的に受け入れる楽観的な人生観を言うが、
もとは『易経』

(中国、周代の占いの書。五経の一。
経文と解説書である「十翼」をあわせて一二編。
陰と陽を六つずつ組み合わせた六四卦(け)によって
自然と人生との変化の法則を説く。
「十翼」は、これに儒家的な倫理や宇宙観を加えて解説してある。
古来、伏羲(ふつき)氏が卦を画し、周の文王が卦辞を、
周公が爻辞(こうじ)を、孔子が「十翼」をつくったといわれるが根拠はない。
周易。易。)
繋辞伝
(「易経」に付された解説書「十翼」の編名。
上下二編。成立は秦・漢の頃か。
周易を儒家の立場から体系的・統一的に把握。
孔子の作ともいうが疑わしい。)
の言葉である。

「天を楽しみ命を知る、故に憂えず」。

「楽天知命」は四字句の成語(熟語)で、
今でも中国語では常用される。
「知命」は、『論語』にいう「五十にして天命を知る」の場合と同義としてよい。
人知の遠く及ばない天の定めた運命に、
ありのままに順応してゆく態度をいっている。
単なるのんきな処世態度をいうのではない。


この「楽天知命」を名実ともにモットーとして生きたのが、
唐の詩人白居易、

(アザナ。中国で、男子が成人後、実名のほかにつけた名。
実名を知られることを忌(い)む風習により生じ、
字がつくと実名は諱(いみな)といってあまり使わなかった。)
は楽天、である。

彼は才知あふれる新進エリート官僚だったが、
直言がたたって、地方官に左遷の憂き目を見た。
その時の落胆は大きかったに違いないが、
彼は字の「楽天」そのままに、やがてそれを天命として受けとめ、
与えられた境遇の中に自分の楽しみを見出していった。

六十八の晩年には、中風
((1)脳出血・脳梗塞や脳軟化により、
運動機能障害ことに痙性(けいせい)片麻痺や言語機能障害をきたした状態。中気。風疾。
(2)〔風(かぜ)に中(あた)る意〕古く、かぜを引くこと。)
を患って身体のしびれに悩まされながら、
やはり「楽天」の精神を保って、大きな危機を乗り越えた。
「枕上(ちんじょう)の作」という病中の詩の結びには、
『易経』の言葉をもじってこういっている。


若し楽天(私)に病を憂うるや否なと問わば
天を楽しみ命を知れば 了(つい)に憂えず


「楽天」と「知命」とは、いわば車の両輪のような関係にある。


<京都国立博物館長 興膳 宏氏>


2005-02-07 20:22:06投稿



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